2024年税制改正:フリーランスが活用できる「経営力強化税制」「所得拡大促進税制」Q&A
2024年の所得税改正は、個人の納税に様々な影響を与えます。特にフリーランスや個人事業主の皆様にとって、確定申告に関わる税制の変更点を正確に理解することは、適切な納税を行い、利用できる制度を活用するために非常に重要です。
本記事では、2024年税制改正の中でも、フリーランス・個人事業主の皆様が事業の強化や雇用に関連して活用できる可能性のある「中小企業経営強化税制」と「所得拡大促進税制」に焦点を当て、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。これらの制度がどのように所得税に影響し、どのような手続きが必要になるのか、一つずつ見ていきましょう。
Q: 中小企業経営強化税制とはどのような制度ですか?フリーランス(個人事業主)でも適用できますか?
A: 中小企業経営強化税制は、中小企業等が「経営力向上計画」を作成し、主務大臣の認定を受けた上で、特定の設備投資を行った場合に、税制上の優遇措置を受けられる制度です。この制度は、個人事業主も一定の要件を満たせば適用対象となります。
この制度の目的は、中小企業等の経営力向上を後押しすることにあり、対象となる設備も、生産性向上に資するものなどが中心です。2024年税制改正において、この制度の適用期限が延長されるとともに、対象設備の範囲などが見直されています。
Q: 中小企業経営強化税制を適用すると、具体的にどのような税務上のメリットがありますか?
A: 中小企業経営強化税制を適用した場合、以下のいずれかの措置を選択して適用することができます。
- 即時償却: 取得した対象設備の取得価額の全額を、その事業の用に供した年分の必要経費(所得税の場合)または損金(法人の場合)に算入できます。これにより、設備投資を行った年の所得を大きく圧縮し、税負担を軽減する効果が期待できます。
- 税額控除: 取得した対象設備の取得価額の合計額に対し、一定割合(原則7%または10%)をその事業の用に供した年分の所得税額から直接差し引くことができます。ただし、税額控除には上限があります。
どちらの措置を選択するかは、その年の所得金額や設備投資額などによって、より有利な方を選択することが可能です。即時償却は所得の繰り延べや一時的な節税効果が大きく、税額控除は税金そのものを減らす効果があります。
例えば、100万円の対象設備を導入し、税率が20%の場合(税額控除率10%の設備と仮定)、即時償却なら100万円が必要経費となり、所得税額が20万円減少する効果があります。税額控除なら、税額から直接10万円差し引かれることになります。
Q: 中小企業経営強化税制を適用するための手続きや必要書類は何ですか?
A: この税制の適用を受けるためには、いくつかの手続きが必要です。
まず、事業者が自社の経営力向上のための目標や計画などを記載した「経営力向上計画」を作成し、事業分野ごとの主務大臣(例えばWebデザイン業なら経済産業大臣)の認定を受ける必要があります。この計画の認定は、設備を取得する前に行うことが原則です。
計画認定後、認定された計画に基づき対象となる設備を取得・導入します。
そして、確定申告の際に、この税制の適用を受ける旨を記載し、認定を受けた経営力向上計画の写しや、設備投資が計画に基づいていることなどを証明する書類(例えば、工業会等が発行する証明書など)を添付して申告する必要があります。
計画の作成や認定手続きには時間がかかる場合がありますので、制度の活用を検討される場合は、早めに情報収集と準備を開始することが推奨されます。
Q: 所得拡大促進税制とは何ですか?フリーランス(個人事業主)で従業員を雇用している場合、対象になりますか?
A: 所得拡大促進税制は、国内雇用者に対する給与等の支給額を一定以上増加させた事業者が、その増加額の一部を税額控除できる制度です。この制度も、従業員(青色事業専従者を除く)を雇用している個人事業主であれば、一定の要件を満たす場合に適用対象となります。
この制度の目的は、企業の賃上げを促進し、経済の活性化につなげることです。2024年税制改正では、この制度が改正・拡充され、より利用しやすくなるよう見直しが行われています。特に、給与等支給額の増加率に応じた控除率の上乗せ措置などがあります。
Q: 所得拡大促進税制を適用すると、どのような税務上のメリットがありますか?
A: 所得拡大促進税制を適用すると、税額控除として所得税額から直接差し引くことができます。控除される税額は、基準となる年度(多くの場合、前年度または前々年度)と比較して増加した国内雇用者への給与等支給額に基づいて計算されます。
具体的には、以下のいずれかの要件を満たした場合に、税額控除を受けることができます。
- 一般措置: 継続雇用者への給与等支給額が対前年度比1.5%以上増加している場合、給与等支給額の増加額の15%(一定の要件を満たす場合は最大25%)を税額控除できます。
- 教育訓練費等の上乗せ措置: 上記の要件に加え、教育訓練費を増加させた場合や、従業員の離職率が低い場合などに、さらに税額控除率が上乗せされる場合があります。
この税制は税額を直接減らす効果があります。従業員への給与を増やした場合に、その一部が税金から戻ってくるイメージです。
例えば、対前年度比で従業員への給与を50万円増やし、一般措置(控除率15%)の要件を満たす場合、50万円 × 15% = 7万5千円が税額控除されます。
Q: 所得拡大促進税制を適用するための手続きは?
A: 所得拡大促進税制の適用を受けるためには、確定申告書に所定の事項を記載し、給与等支給額や税額控除額の計算に関する明細書を添付して申告する必要があります。
適用要件を満たしているかの判定(給与等支給額の計算や増加率の計算など)は、確定申告を行う年分の状況に基づいて行います。対象となる給与等支給額は、国内の事業所に勤務する雇用者に対する給与や賞与などです。
特別な計画の認定などは必要ありませんが、適用要件を満たしていることを正確に計算し、確定申告書に正しく記載することが重要です。給与計算や年末調整のデータを基に必要な計算を行うことになります。
Q: これらの税制(経営力強化税制・所得拡大促進税制)を適用する際の注意点はありますか?
A: これらの税制優遇措置を活用するにあたっては、いくつかの注意点があります。
まず、それぞれの制度には詳細な適用要件が定められています。例えば、対象となる設備の定義、給与等支給額の計算方法、増加率の判定基準などです。ご自身の事業や状況が要件を満たしているか、国税庁や中小企業庁の最新の情報を確認することが不可欠です。
次に、手続きには期限があります。経営力向上計画の認定は設備取得前、所得拡大促進税制は確定申告時ですが、いずれも計画的な準備が必要です。特に経営力向上計画の認定には数週間から数ヶ月かかる場合もあります。
また、他の税制優遇措置との関係も確認が必要です。例えば、特別償却や税額控除に関する他の制度と重複して適用できない場合があります。ご自身の事業計画全体の中で、どの税制が最も有利か、慎重に判断することが大切です。
最後に、これらの税制は所得税額を減らす効果がありますが、事業の状況によっては適用できない場合や、税額控除額が所得税額を上回ることで控除しきれない場合があります。ご自身の正確な所得金額や税額を見積もった上で、適用可能性やメリットを検討することが重要です。
まとめ
2024年税制改正では、フリーランスや個人事業主の皆様が活用できる経営力強化税制や所得拡大促進税制など、事業活動に関連する税制優遇措置が見直されています。これらの制度は、設備投資による生産性向上や従業員の雇用・賃上げを検討されている方にとって、税負担を軽減し、事業の成長を後押しする可能性があります。
ただし、各制度には詳細な適用要件や複雑な計算、事前の手続きなどが伴います。ご自身の事業が対象となるか、どのようなメリットがあるのか、正確な情報を基に検討を進めることが重要です。確定申告に向けて、これらの税制についても早めに情報収集を行い、必要に応じて専門家へ相談することもご検討ください。