2024年所得税改正:適格請求書発行事業者登録後の手続きと税務Q&A(フリーランス向け)
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2023年10月から開始されたインボイス制度は、多くのフリーランスの皆様の税務に影響を与えています。適格請求書発行事業者の登録をされた方、これから課税事業者として確定申告を迎える方もいらっしゃるかと存じます。登録後の税務上の取り扱いには、所得税の確定申告や日々の記帳に関連する注意点も含まれます。
この記事では、適格請求書発行事業者登録後のフリーランスの皆様が抱きやすい税務上の疑問点を、Q&A形式で解説いたします。登録後の手続きや、事業状況の変化に伴う税務上の注意点についてご確認いただき、正確な確定申告にお役立ていただければ幸いです。
Q1:適格請求書発行事業者として登録後、所得税の確定申告書の記載で特に変わる点はありますか?
A1:
適格請求書発行事業者として課税事業者になった場合、消費税の申告義務が発生します。所得税の確定申告書そのものの様式に大きな変更があるわけではありませんが、事業所得の金額を計算する過程で消費税の会計処理(税込経理または税抜経理)をどのように行っているかが影響します。
税抜経理を選択している場合、売上や仕入、経費は消費税額を含まない本体価格で記帳します。消費税の預かり(仮受消費税)と支払い(仮払消費税)は別途管理し、最終的に納付または還付される消費税額は、事業所得の計算上、費用(租税公課など)または収益(雑収入など)として処理します。
一方、税込経理を選択している場合、売上や仕入、経費は消費税額を含んだ総額で記帳します。納付または還付される消費税額は、その支払または受取があった年の経費または収益として処理します。
多くのフリーランスの方は、導入期における事務負担軽減のため、税抜経理を採用されるケースが多いかと存じます。どちらの経理方法を選択しても事業所得の計算結果は長期的に見れば同じになりますが、確定申告を行う年の消費税の処理によって、一時的に事業所得の金額が変動することがあります。ご自身の採用している経理方法を確認し、それに基づいて正確に所得を計算することが重要です。
Q2:適格請求書発行事業者登録を取りやめたい場合、どのような手続きが必要ですか?また所得税への影響はありますか?
A2:
適格請求書発行事業者としての登録を取りやめる場合、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。この届出書を提出し、所定の手続きが完了すると、原則として提出から15日を経過した日以後に迎える課税期間の初日から登録が効力を失います。
登録を取りやめて免税事業者に戻る場合、消費税の申告義務はなくなります。ただし、課税事業者であった期間中に適用していた消費税の経理方法(税込経理・税抜経理)や、固定資産の取得に関する消費税の調整(課税売上割合の変動など)によっては、最終課税期間の消費税申告やその後の処理において注意が必要です。
所得税への直接的な影響としては、前述のように消費税の経理方法の変更が必要になる場合があります。例えば、課税事業者として税抜経理をしていた方が免税事業者に戻り、税込経理に変更する場合、期首の資産・負債に係る消費税額の調整などが必要となる場合があります。所得税の確定申告書には、消費税の納税義務の有無や、課税事業者である期間の売上・仕入に係る消費税額を記載する欄がありますが、免税事業者に戻った場合はその旨を適切に申告書に反映させる必要があります。
Q3:簡易課税から本則課税へ、またはその逆へ課税方式を変更する場合、確定申告で注意すべき点は?
A3:
消費税の課税事業者には、原則的な本則課税と、中小事業者の事務負担を軽減するための簡易課税があります。課税方式を変更する場合、「消費税課税方式選択届出書」または「消費税課税方式選択不適用届出書」を税務署に提出する必要があります。一度選択した課税方式は原則として2年間継続する必要があるなど、適用には一定の要件や制約があります。
課税方式の変更は主に消費税の申告計算に影響しますが、所得税の確定申告に関連しては、特に記帳方法に影響が出ることがあります。簡易課税の場合、売上にかかる消費税額から、事業区分に応じた「みなし仕入率」を用いて仕入にかかる消費税額を計算するため、個々の仕入や経費にかかる消費税額を区分して記帳する必要はありません。しかし、本則課税に戻る場合、仕入税額控除の計算のために、課税仕入れ等に係る消費税額を個別に区分して記帳する必要があります(区分経理)。
所得税の確定申告では、事業所得の金額はこれらの消費税の処理方法に応じた記帳に基づいて計算されます。したがって、課税方式を変更した場合は、その事業年度の最初から新しい課税方式に基づいた記帳ルール(特に区分経理の要否)を適用し、正確な帳簿を作成することが、所得税の確定申告のためにも非常に重要になります。
Q4:適格請求書発行事業者の登録情報(氏名、名称、住所、事業所など)に変更があった場合、税務上の手続きは必要ですか?
A4:
適格請求書発行事業者として登録された情報に変更があった場合、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」を提出する必要があります。氏名や名称、納税地(住所など)の変更があった場合は、変更後遅滞なく提出することが求められています。事業所に関する変更も、登録情報に含まれる事項であれば届出が必要です。
これらの届出は、主に消費税の登録情報に関するものですが、所得税の確定申告に関連する氏名や住所などの基本情報が変更になった場合は、別途、所得税に関する異動届出書等を提出する必要がある場合もあります。確定申告書に記載する情報が最新かつ正確であることは、適正な申告を行う上で基本となりますので、変更が生じた際は速やかに必要な手続きを行うように心がけてください。
Q5:特定期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が1000万円を超えた場合の注意点は?
A5:
個人事業主の場合、前々年の課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその年の納税義務者(課税事業者)となります。これを「特定期間」による納税義務の判定といいます。適格請求書発行事業者に登録しているかどうかにかかわらず、この判定により課税事業者となる場合があります。
適格請求書発行事業者として既に課税事業者である場合、特定期間の判定は直接的な影響を与えないように思えますが、簡易課税制度の適用を選択している場合には関連する注意点があります。簡易課税を適用できるのは、基準期間(個人事業主の場合は前々年)における課税売上高が5,000万円以下である事業者です。したがって、前々年の課税売上高が5,000万円を超えた場合は、その年は簡易課税を適用できず、本則課税で申告する必要があります。
特定期間の判定により新たに課税事業者となる場合や、基準期間の課税売上高により簡易課税の適用を受けられなくなる場合は、ご自身の消費税の納税義務や課税方式が変わるため、日々の記帳方法や確定申告の準備にも変更が生じます。ご自身の売上高の状況を把握し、早期に税務署や税理士に相談するなど、適切な対応を準備することが重要です。
この記事では、適格請求書発行事業者として登録後のフリーランスの皆様が知っておくべき税務上の手続きや注意点について解説しました。インボイス制度開始に伴い、消費税に関する手続きと所得税の確定申告がより密接に関連するようになりました。
ご自身の事業状況に応じた正しい記帳と申告を行うためには、税制の変更点を正確に理解し、必要に応じて手続きを行うことが不可欠です。ご不明な点やご自身のケースに当てはめて具体的に知りたい点がある場合は、税務署の窓口や税理士などの専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
正確な税務処理で、安心して事業を継続していきましょう。