2024年確定申告:少額減価償却資産の特例 適用要件と計算方法Q&A(フリーランス向け)
2024年の税制改正に関する様々な情報に触れる中で、フリーランスの皆様がご自身の確定申告にどのように影響するのか、具体的な疑問をお持ちになることは自然なことです。特に、事業で使用する設備や機器の購入費用をどのように経費として計上できるかは、所得計算に直接関わる重要な点です。
ここでは、2024年確定申告においても活用が可能な「少額減価償却資産の特例」に焦点を当て、フリーランス(個人事業主)の視点から、その制度の具体的な内容、適用するための要件、そして経費計上の計算方法について、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。この特例を正しく理解し活用することで、適正な所得税の申告にお役立ていただければ幸いです。
Q1: 少額減価償却資産の特例とは、どのような制度ですか?
A1: 少額減価償却資産の特例は、青色申告を行う中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産(事業の用に供した資産)を取得した場合に、その全額をその事業の用に供した事業年度の経費(所得税においては必要経費)として一括で計上できる制度です。
通常の減価償却では、事業に使用する固定資産は、その資産の種類に応じて定められた耐用年数にわたって少しずつ経費として計上していく必要があります。例えば、パソコンであれば通常4年などの耐用年数で按分して経費化します。
しかし、この特例を適用すれば、一定の要件を満たす中小企業者等(個人事業主を含む)が取得した30万円未満の資産については、取得した年に全額経費として計上できるため、早期に節税効果が得られるメリットがあります。この特例は、中小企業者等の設備投資を促進することを目的としています。
この特例の適用期限は、度々延長されており、2024年の税制改正においてもその適用期限が延長されています。
Q2: フリーランス(個人事業主)がこの特例を適用するための「適用要件」を具体的に教えてください。
A2: フリーランス(個人事業主)が少額減価償却資産の特例を適用するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 青色申告者であること: この特例は、所得税の青色申告承認を受けている方が対象です。白色申告の方は適用できません。
- 「中小企業者等」であること: 個人事業主の場合、「中小企業者等」とは、常時使用する従業員の数が1,00ンス(個人事業主)の場合、「中小企業者等」とは、常時使用する従業員の数が1,000人以下**である場合を指します。
- 法人の場合は資本金の額や出資の総額で判定しますが、個人事業主には資本金がないため、従業員数で判定します。
- ここでいう「常時使用する従業員」には、パートタイマー、アルバイト、日雇労働者、派遣労働者なども含まれますが、事業主本人や青色事業専従者、臨時の従業員などは含まれません。
- 対象となる資産の取得価額が30万円未満であること: 1個または1組の資産の取得価額が30万円未満であることが必要です。
- 事業の用に供していること: 取得した資産を実際に事業で使用していることが必要です。
- 年間合計額の上限: 特例を適用できる取得価額の合計額は、その年(1月1日~12月31日)で300万円が上限です。この上限額を超える部分については、この特例を適用できません。
これらの要件、特に個人事業主の従業員数に関する要件を満たしているかをご確認ください。
Q3: 特例の対象となる「取得価額30万円未満」の判定はどのように行いますか?複数の資産を取得した場合の注意点はありますか?
A3: 「取得価額30万円未満」の判定は、原則として1個または1組ごとの単位で行います。
- 1個の単位: 通常、取引単位ごとに判定します。例えば、パソコン本体とディスプレイを別々に購入した場合はそれぞれで判定します。しかし、複数の資産をまとめて購入した場合でも、物理的に一体となって機能するものや、個別の購入では機能を発揮できないものなどは、全体で1組として判定することがあります(例:複数台の機械が連結して一つの生産ラインを構成する場合など)。フリーランスの場合、パソコン本体とキーボード、マウスなどをセットで購入し、これらが一体となって機能する場合は、これらを「1組」として取得価額を合計して判定することもあり得ます。
- 取得価額に含めるもの: 資産の購入代金のほか、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、据付費など、その資産を事業の用に供するために直接要した費用も取得価額に含めて判定します。
- 消費税の扱い: 取得価額に消費税を含めるか含めないかは、事業主の消費税の経理処理方式(税込経理または税抜経理)によって異なります。
- 税込経理: 消費税込みの金額で30万円未満かどうかを判定します。
- 税抜経理: 消費税抜きの金額で30万円未満かどうかを判定します。 ご自身の経理方式に合わせて判定を行ってください。
複数の資産を年に複数回取得した場合でも、それぞれの資産ごとに取得価額が30万円未満であるかを判定します。その上で、特例を適用する資産の取得価額の年間の合計額が300万円を超えていないかを確認する必要があります。例えば、1月に20万円のパソコンを、7月に25万円のディスプレイを購入した場合、それぞれの取得価額は30万円未満ですので、両方とも特例の対象となり得ます。年間の合計額は45万円となり、300万円の上限内です。
Q4: 特例を適用した場合の「経費計上額の計算」や「記帳方法」を具体例で教えてください。
A4: 特例を適用する場合、対象となる資産の取得価額を、事業の用に供した日の属する年分の必要経費として一括で計上します。
計算方法: 特例を適用できる金額は、その年中に取得し事業の用に供した取得価額30万円未満の資産の合計額のうち、年間300万円が上限です。
- 例1:年間に取得価額20万円のパソコンを1台購入した場合。
- 取得価額20万円 < 30万円 なので対象。
- 年間の特例適用額合計 = 20万円。上限300万円以下。
- 必要経費に計上できる金額 = 20万円。
- 例2:年間に取得価額25万円のモニターを1台、取得価額15万円のプリンターを1台購入した場合。
- モニター: 25万円 < 30万円 なので対象。
- プリンター: 15万円 < 30万円 なので対象。
- 年間の特例適用額合計 = 25万円 + 15万円 = 40万円。上限300万円以下。
- 必要経費に計上できる金額 = 40万円。
- 例3:年間に取得価額28万円の機材を10台購入した場合。(税込経理、全て30万円未満と仮定)
- 各機材: 28万円 < 30万円 なので対象。
- 年間の特例適用額合計 = 28万円 × 10台 = 280万円。上限300万円以下。
- 必要経費に計上できる金額 = 280万円。
- 例4:年間に取得価額35万円の機材を1台、取得価額20万円の機材を10台購入した場合。(税込経理)
- 35万円の機材: 35万円 > 30万円 なので特例対象外。通常の減価償却を行います。
- 20万円の機材(10台): 各20万円 < 30万円 なので特例対象。年間の合計額は 20万円 × 10台 = 200万円。
- 年間の特例適用額合計 = 200万円。上限300万円以下。
- 必要経費に計上できる金額 = 200万円(特例分) + 35万円の機材の通常の減価償却費。
記帳方法: 特例を適用する資産は、「消耗品費」や「事務用備品費」などの勘定科目で、取得した年に必要経費として計上します。通常の減価償却資産のように固定資産台帳に記載し、減価償却費として計上するのとは異なります。
- 例:取得価額20万円のパソコンを現金で購入し、特例を適用する場合(税込経理)。
- 仕訳例:
- (借方)消耗品費 200,000 / (貸方)現金 200,000
- 仕訳例:
この特例を適用した資産については、確定申告書に添付する「青色申告決算書」(または収支内訳書)において、「少額減価償却資産の取得価額に関する明細」を記載する箇所がありますので、そちらに必要事項を記入します。
Q5: この特例を適用する際に、他に注意すべき点はありますか?
A5: 少額減価償却資産の特例を適用する上で、以下の点に注意が必要です。
- 青色申告者限定: 繰り返しになりますが、この特例は青色申告者のみが適用できます。白色申告者は、10万円未満の資産を「一括償却資産」として3年間で均等に経費化するか、通常の減価償却を行うことになります。
- 取得価額の判定: 1個または1組で30万円未満かどうかの判定を誤らないように注意が必要です。例えば、応接セットのようにテーブルと椅子をセットで使用する場合は、通常1組として合計額で判定します。
- 年間300万円の上限: 年間の合計額が300万円を超えた場合、超えた部分についてはこの特例を適用できません。超えた部分の資産は、通常の減価償却を行うことになります。
- 事業の用に供した年: 特例を適用できるのは、その資産を実際に事業で使用し始めた年です。購入しただけでは計上できません。
- 帳簿への記載: この特例を適用する資産についても、いつ、何を、いくらで購入したか、事業の用に供した日などを帳簿に正確に記載する必要があります。
- 将来売却した場合: 特例を適用して全額経費計上した資産を後日売却した場合、その売却収入は事業所得等の収入金額に含めて申告する必要があります。売却益が出た場合には課税対象となります。
この特例はフリーランスの設備投資を後押しする有効な制度ですが、適用要件や手続きを正しく理解することが重要です。不明な点がある場合は、税務署や税理士などの専門家にご相談ください。
この少額減価償却資産の特例は、事業に必要な投資を行いやすくし、キャッシュフローを改善する効果も期待できます。2024年の確定申告に向けて、ご自身の事業に必要な資産購入について、この特例の活用を検討してみてはいかがでしょうか。正確な知識を持って適切に申告手続きを進めることが、税務上のリスクを避け、安心して事業を継続するための礎となります。