2024年税制改正:個人事業主が活用できる「賃上げ税制」の適用Q&A
2024年税制改正における「賃上げ税制」とは?個人事業主への影響をQ&Aで解説
2024年の税制改正では、所得税に関する様々な変更が行われています。その中でも、従業員を雇用している個人事業主の方にとって関心が高い制度の一つに「賃上げ税制」があります。正式には「所得拡大促進税制」と呼ばれ、従業員の給与等を増やした場合に、一定の要件を満たすことで税額控除を受けられる制度です。
この制度は、令和6年度税制改正において内容が見直され、より使いやすい制度となるよう措置が講じられました。従業員を雇用し、青色申告を行っている個人事業主の方は、この税制を適用できる可能性があります。本記事では、2024年の税制改正を踏まえた賃上げ税制について、個人事業主の方が抱きがちな疑問をQ&A形式で解説いたします。
この記事を読むことで、賃上げ税制の概要、適用要件、税額控除の計算方法、確定申告における手続きなど、フリーランスが知っておくべきポイントを理解することができます。適切な税務処理を行い、利用できる税額控除を漏れなく適用するために、ぜひご確認ください。
Q1. 賃上げ税制(所得拡大促進税制)とは何ですか?個人事業主でも対象になりますか?
A1. 賃上げ税制は、国内雇用者に対して給与等を支給した場合に、基準となる年度と比べて給与等支給額が増加している場合に、その増加額の一部を法人税や所得税から税額控除できる制度です。
この制度は、法人だけでなく、青色申告書を提出する個人事業主の方も対象となります。ただし、従業員を雇用しており、その従業員に対して給与を支払っている場合に限られます。一人で事業を行っているフリーランスの方は、この制度の対象とはなりませんのでご注意ください。
制度の目的は、企業の継続的な賃上げを後押しし、経済の活性化につなげることです。2024年(令和6年)の税制改正では、賃上げ促進に向けた税制措置として、適用要件や控除率が見直され、より多くの事業者が賃上げに取り組みやすくなるように設計されています。
Q2. 個人事業主が賃上げ税制の適用を受けるための主な要件は何ですか?
A2. 個人事業主が賃上げ税制の適用を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。
- 青色申告者であること: 所得税の確定申告書を青色申告書で提出していることが前提となります。
- 国内雇用者に対する給与等支給額が増加していること: 適用を受けようとする年(対象年度)の「国内雇用者に対する給与等支給額」が、比較対象となる年度の給与等支給額と比較して一定割合以上増加している必要があります。
- 事業の継続: 適用を受けようとする年において、事業を継続して営んでいること。
「国内雇用者に対する給与等支給額」とは、原則として事業専従者を除いた従業員に支払った給与や賞与などの合計額を指します。具体的にどの年度の給与等支給額と比較するか、また必要な増加率は、税制改正によって見直されており、適用を受ける年によって異なる場合があります。2024年分の所得税については、新たな措置に基づいた要件が適用されます。詳細は国税庁の公表する情報をご確認ください。
Q3. 控除される税額はどのように計算されますか?
A3. 控除される税額は、給与等支給額の増加割合等に応じて計算されます。基本的な計算式は、対象年度の「国内雇用者に対する給与等支給額」から、比較対象年度の「国内雇用者に対する給与等支給額」を差し引いた「増加額」に、一定の税額控除率を乗じて算出されます。
控除額 = (対象年度の国内雇用者に対する給与等支給額 - 比較対象年度の国内雇用者に対する給与等支給額) × 税額控除率
税額控除率は、給与等支給額の増加率や、教育訓練費の増加、あるいは中小企業者等であるかなどによって、基本的な控除率に上乗せ措置が適用される場合があります。個人事業主の場合は、一般的に「中小企業者等」向けの措置が適用されると考えられます。2024年の税制改正では、この増加率の要件や控除率が変更・拡充されています。
例えば、ある個人事業主が前年(比較対象年度)に国内雇用者に合計300万円の給与を支払い、本年(対象年度)に330万円支払った場合、増加額は30万円です。増加率は (330万円 - 300万円) / 300万円 = 10% となります。この増加率に応じて、適用される税額控除率が決定され、増加額に乗じて控除額が計算されることになります。具体的な税額控除率や上乗せ要件については、最新の税法や国税庁の情報を参照する必要があります。
税額控除額には上限が設けられています。通常、その年の所得税額の一定割合が上限となります。
Q4. 確定申告ではどのような手続きが必要ですか?
A4. 賃上げ税制(所得拡大促進税制)の適用を受けるためには、確定申告書に所定の事項を記載し、税額控除に関する明細書を添付して提出する必要があります。
- 確定申告書の記載: 所得税の確定申告書(申告書B様式など)の「税額控除」欄に、適用を受ける賃上げ税制による控除額を記載します。
- 税額控除に関する明細書の添付: 確定申告書には、「所得拡大促進税制に係る税額控除に関する明細書」(正式名称は年によって異なる場合があります)を添付します。この明細書には、比較対象年度の給与等支給額、対象年度の給与等支給額、増加額、増加率、適用を受ける控除率、計算された控除額などを記載します。
これらの書類を作成するためには、日々の帳簿付けにおいて、国内雇用者への給与等支給額を正確に把握しておくことが重要です。給与計算ソフトなどを利用している場合は、集計機能を活用すると便利です。
e-Taxを利用して申告する場合は、該当する項目に入力し、必要な明細データを作成・送信することになります。
Q5. 賃上げ税制を適用する際の注意点はありますか?
A5. 賃上げ税制を適用する際には、いくつか注意しておくべき点があります。
- 対象となる給与等支給額の範囲: 税額控除の対象となる「国内雇用者に対する給与等支給額」には、役員に対する給与や、青色事業専従者への給与は含まれません。あくまで、青色事業専従者以外の従業員に支払った給与・賞与などが対象となります。
- 比較対象年度の選択: 制度改正によって、比較対象とする年度の考え方が定められています。適用を受けようとする年の前事業年度などが基本となりますが、継続して適用を受けている場合など、詳細な規定がありますので確認が必要です。
- 他の税額控除との関係: 賃上げ税制による税額控除は、他の税額控除(例:住宅ローン控除など)と併せて適用することができますが、控除額の合計には上限がある場合があります。
- 適用要件の詳細確認: 税制改正により、増加率の要件や上乗せ措置の適用要件などが細かく定められています。ご自身の事業の状況がこれらの要件を満たしているかを、正確に確認することが重要です。
賃上げ税制は、従業員を雇用している個人事業主にとって、税負担を軽減できる可能性がある有用な制度です。しかし、適用要件の判断や控除額の計算には専門的な知識が必要となる場合もあります。ご自身の事業への適用可能性について判断に迷う場合や、正確な計算・申告手続きに不安がある場合は、税理士などの専門家に相談することも検討すると良いでしょう。
結び
2024年の税制改正における賃上げ税制(所得拡大促進税制)は、従業員の給与を引き上げた個人事業主にとって、所得税の負担を軽減する機会となり得ます。適用には一定の要件と正確な計算、そして適切な確定申告手続きが必要です。
この記事で解説したQ&Aを参考に、ご自身の事業が賃上げ税制の対象となるかをご確認いただき、適用可能であれば積極的に活用をご検討ください。正確な情報に基づいた申告を行うためにも、最新の税法や国税庁の情報を参照するとともに、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることをお勧めいたします。確定申告に向けて、計画的に準備を進めていきましょう。