2024年確定申告:フリーランスのための青色申告純損失の繰り越し控除Q&A
2024年確定申告:フリーランスのための青色申告純損失の繰り越し控除Q&A
個人事業主やフリーランスの方にとって、毎年行う確定申告は重要な手続きです。特に2024年(令和6年分)の確定申告においては、様々な税制改正の影響を正確に理解し、適切に申告を行うことが求められます。事業の状況によっては、売上から経費を差し引いた所得が赤字となる、いわゆる「純損失」が発生する場合があります。この純損失を翌年以降に繰り越すことで、将来の所得税や住民税の負担を軽減できる制度が「純損失の繰り越し控除」です。
この制度は青色申告を行っている方が利用できる特典の一つであり、事業経営のセーフティネットとして非常に有効です。今回は、フリーランスの方が2024年の確定申告に向けて知っておくべき、純損失の繰り越し控除に関する疑問点をQ&A形式で解説します。
Q1:純損失の繰り越し控除とは何ですか?
A1: 純損失の繰り越し控除とは、青色申告を行っている個人事業主やフリーランスの方に、事業で発生した赤字(純損失)を翌年以降に繰り越して、将来の黒字になった所得から差し引くことを認める制度です。
所得税は1年間の所得に対して課税されますが、事業は必ずしも毎年安定した利益が出るわけではありません。特にフリーランスの場合、開業当初や大きな設備投資を行った年、あるいは特定のプロジェクトで一時的に大きな経費が発生した年などは、赤字になることもあり得ます。この赤字をそのままにしておくと、翌年以降に黒字になった場合にその年の所得に対して満額で税金がかかってしまい、事業全体の収支から見ると税負担が重くなる可能性があります。
純損失の繰り越し控除を利用すれば、赤字を最長3年間繰り越すことができます。そして、翌年以降に黒字所得が発生した場合、その所得から過去の赤字分を差し引くことで、課税対象となる所得額を減らし、結果として所得税や住民税の負担を軽減することが可能になります。
Q2:純損失の繰り越し控除を受けるための要件は何ですか?
A2: 純損失の繰り越し控除の適用を受けるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 青色申告事業者であること: この制度は、青色申告を行っている方に認められる特典です。白色申告では、一部の損失(雑損失など)を除き、原則として純損失の繰り越しはできません。
- 正規の簿記の原則に従って記帳していること: 純損失の繰り越し控除を受けるためには、青色申告特別控除の65万円控除や55万円控除と同様に、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って日々の取引を記帳する必要があります。簡易な簿記(所得税法上の現金主義による所得計算の特例を除く)による10万円控除では、純損失の繰り越し控除は受けられません。
- 損失が発生した年の確定申告を、提出期限内に青色申告で行うこと: 赤字が発生した年であっても、確定申告(青色申告)を法定申告期限(原則として翌年3月15日)までに提出する必要があります。この申告書に、純損失の額や繰り越し控除を受けたい旨などを記載します。
- その後も連続して確定申告を行うこと: 純損失を繰り越す期間(最大3年間)は、損失が発生しなかった年や繰り越す損失がない年であっても、連続して確定申告書を提出する必要があります。青色申告を継続することが望ましいですが、白色申告になったとしても、確定申告を続けていれば純損失を繰り越すことができます。
特に、正規の簿記による記帳と期限内の青色申告提出は、純損失の繰り越し控除だけでなく、青色申告特別控除の適用においても重要な要件です。2024年確定申告(令和6年分)に向けて、ご自身の記帳方法が正規の簿記に該当するかどうか、また、期限内の申告が可能か改めてご確認ください。
Q3:純損失はどれくらいの期間繰り越せますか?
A3: 青色申告事業で発生した純損失は、損失が発生した年の翌年以降、最大3年間繰り越すことができます。
例えば、2024年(令和6年分)の確定申告で事業所得に純損失(赤字)が発生した場合、この損失は2025年(令和7年分)、2026年(令和8年分)、2027年(令和9年分)の3年間にわたって、それぞれの年の所得から控除することができます。
3年以内に控除しきれなかった純損失は、それ以降に繰り越すことはできません。
Q4:繰り越した損失はどのように所得から控除されますか?計算例はありますか?
A4: 繰り越した純損失は、まずその年の事業所得から控除されます。事業所得から控除しきれない場合は、他の各種所得(不動産所得、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得など)からも順次控除することができます(ただし、山林所得、退職所得、土地建物等の譲渡所得など、分離課税される所得の一部からは控除できない場合があります)。
繰り越した損失が複数年にわたる場合は、古い年の損失から優先的に控除していくルールになっています。
計算例: 仮に、以下のような所得の状況であったとします。
- 2024年(令和6年分):事業所得 △100万円(純損失)
- 2025年(令和7年分):事業所得 80万円、その他の所得 20万円 (合計 100万円)
- 2026年(令和8年分):事業所得 60万円
- 2027年(令和9年分):事業所得 50万円
この場合の純損失の繰り越し控除による影響は以下のようになります。
- 2024年(令和6年分): 事業所得 △100万円の純損失が発生。この損失額を確定申告で正しく申告し、翌年以降へ繰り越す手続きを行います。
- 2025年(令和7年分): 合計所得は100万円です。2024年の純損失100万円を繰り越し控除します。
- 課税される所得額 = 100万円 - 100万円 = 0円
- この年で2024年の純損失全額が控除され、繰り越せる損失は残り0円となります。
- 2026年(令和8年分): 前年から繰り越せる損失はありません。
- 課税される所得額 = 60万円
- 2027年(令和9年分): 前年から繰り越せる損失はありません。
- 課税される所得額 = 50万円
もし純損失の繰り越し控除がなかった場合、2025年以降の所得にそのまま課税されることになりますが、この制度を利用することで、2025年の課税所得が0円となり、その年の所得税・住民税負担が大幅に軽減されます。
損失額が大きく、1年で控除しきれない場合は、翌年、さらにその翌年へと繰り越して控除が続きます。例えば2024年の損失が100万円で、2025年の所得が40万円、2026年の所得が30万円、2027年の所得が50万円だった場合、
- 2025年:2024年の損失100万円のうち40万円を控除(残り60万円)
- 2026年:2024年の損失残り60万円のうち30万円を控除(残り30万円)
- 2027年:2024年の損失残り30万円を控除(残り0円)
というように、3年間で順次控除されることになります。
Q5:純損失の繰り越し控除を受けるための具体的な手続き(確定申告書の記載方法など)を教えてください。
A5: 純損失の繰り越し控除を受けるためには、確定申告書への正確な記載と、必要書類の添付が不可欠です。特に、損失が発生した年の確定申告において、将来の繰り越しを見据えた手続きが重要です。
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損失が発生した年(例えば2024年分)の確定申告:
- 青色申告決算書: 事業の収支計算を行い、純損失の金額を確定させます。決算書の該当箇所(通常は損益計算書の下部など)に純損失額が記載されます。
- 確定申告書 第一表: 「所得金額」欄に、事業所得が赤字であることを示します。
- 確定申告書 第四表(損失申告用): 純損失の金額、その損失の種類(事業所得など)、翌年以降へ繰り越す旨などを記載します。この第四表の提出が、純損失を繰り越すための重要な手続きとなります。
- これらの書類を、法定申告期限(原則として翌年3月15日)までに税務署に提出します。e-Taxで申告する場合も同様に、これらの情報を入力・送信します。
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損失を繰り越して控除を受ける年(例えば2025年分以降)の確定申告:
- 確定申告書 第一表: その年の各種所得金額を記載します。
- 確定申告書 第四表(損失申告用): 前年から繰り越された純損失の金額を記載し、その年の所得からいくら控除したかを記載します。その年の所得から控除しきれない損失があれば、翌年以降へ繰り越す旨も記載します。
- この年も、確定申告書を法定申告期限までに提出する必要があります。繰り越す損失が残っている限り、毎年この手続きが必要です。
特に、損失が発生した年の確定申告で第四表の提出を忘れてしまうと、原則としてその損失を翌年以降に繰り越すことができなくなります。赤字であったとしても、必ず期限内に正しく申告することが重要です。
Q6:純損失が発生した年は、繰り越し控除以外に何か税務上のメリットはありますか?(還付など)
A6: 純損失が発生した場合、繰り越し控除の他に、純損失の繰り戻し還付という制度があります。これは、損失が発生した年の前年にも青色申告をしていて黒字所得があった場合、その前年の所得税を減額し、既に納めた税金の一部または全部の還付を受けることができる制度です。
- 要件: 青色申告事業者であること、損失が発生した年の前年にも青色申告をしていて所得があったこと、損失が発生した年の確定申告書と併せて「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出すること、などの要件があります。
- 注意点: この制度を利用できるのは、中小企業者等に限られています。個人事業主の場合、常時使用する従業員の数が1,000人以下であることなどの要件を満たす必要があります。多くのフリーランスの方はこの要件を満たすと考えられますが、念のためご確認ください。
- 選択制: 純損失の繰り越し控除と繰り戻し還付は選択適用です。どちらか有利な方を選ぶことができます。一般的には、将来の所得が多く見込まれる場合は繰り越し控除が有利になることが多いですが、すぐに税金を取り戻したい場合は繰り戻し還付が有利になることもあります。
繰り戻し還付を受ける場合は、損失が発生した年の確定申告書と同時に還付請求書を提出する必要があります。
Q7:複数の事業年度に損失がある場合、どのように処理しますか?
A7: 複数の事業年度に純損失が発生し、それぞれ繰り越し可能な期間内にある場合、それらの損失は最も古い年に発生した損失から順に、その年の所得から控除していくことになります。
例えば、
- 2024年(令和6年分):事業所得 △80万円(損失①)
- 2025年(令和7年分):事業所得 △50万円(損失②)
- 2026年(令和8年分):事業所得 150万円
という状況だったとします。
- 2024年: 損失①(△80万円)を申告し、翌年以降へ繰り越し。
- 2025年: 損失②(△50万円)を申告し、翌年以降へ繰り越し。
- 2026年: 所得150万円が発生。まず、最も古い損失である損失①(2024年分 △80万円)を控除します。
- 控除後の所得 = 150万円 - 80万円 = 70万円 次に、損失②(2025年分 △50万円)を控除します。
- 控除後の所得 = 70万円 - 50万円 = 20万円 この年の課税される所得は20万円となります。
このように、古い損失から順番に、その年の所得の金額を上限として控除していきます。損失の繰り越し期間はそれぞれ3年間ですので、いつ発生した損失かを管理しておくことが重要です。
まとめ
青色申告の純損失の繰り越し控除は、フリーランスにとって税負担を適切に管理するための強力なツールです。事業が赤字になった年でも、正確に青色申告を行い、この制度を適用することで、将来の事業回復期における税負担を軽減することができます。
この制度を利用するためには、何よりもまず、日々の取引を正確に記帳し、正規の簿記の原則に基づいた帳簿を作成することが重要です。そして、たとえ赤字であっても、必ず法定申告期限内に確定申告(青色申告)を行い、必要な書類(特に確定申告書第四表)を提出することを忘れないようにしてください。
2024年の確定申告に向けて、ご自身の事業の状況を把握し、純損失の繰り越し控除を適用できる可能性があるか、またそのための準備はできているかをご確認いただくことをお勧めいたします。正確な申告を行い、この制度を有効に活用することで、安心して事業を継続していく一助となるでしょう。