Q&Aでわかる2024税制改正

2024年税制改正:災害時の雑損控除の適用拡大Q&A(フリーランス向け)

Tags: 税制改正, 雑損控除, 確定申告, フリーランス, 所得控除, 暗号資産

はじめに

毎年ご自身で確定申告を行っているフリーランスの皆様にとって、税制改正は申告内容に直接影響するため、その変更点を正確に把握しておくことが重要です。特に、予期せぬ事態に備えるための税制度についても理解を深めておくと、万が一の際に役立ちます。

この記事では、2024年(令和6年度)の税制改正における所得税関連の変更点の中から、「災害に係る雑損控除」に焦点を当て、フリーランスの皆様が知っておくべき内容をQ&A形式で解説します。今回の改正で控除の対象となる資産が拡大されました。このQ&Aを通じて、制度の概要と改正点を理解し、確定申告の参考にしていただければ幸いです。

Q&Aでわかる災害に係る雑損控除の改正

Q1:そもそも雑損控除とは、どのような制度ですか?

A1:雑損控除は、納税者ご自身や、生計を一にする配偶者や扶養親族が所有する「生活に通常必要な資産」が、災害や盗難、横領によって損害を受けた場合に、その損失額を所得から控除できる制度です。所得税法に基づき、税負担を軽減するための仕組みとして設けられています。

ここでいう「災害」には、地震、台風、豪雨などの自然災害のほか、火災、人為による異常な災害(例:爆発など)が含まれます。「生活に通常必要な資産」とは、居住用の家屋、家具、衣類など、生活に欠かせない資産を指し、事業用の商品や棚卸資産、事業用の固定資産、生活に通常必要でない資産(例:骨とう品、別荘など)は原則として含まれません。

控除を受けることで、その年の所得税額が軽減されるか、または所得控除額が大きく所得金額を上回る場合には、翌年以降3年間にわたって繰り越して控除を受けることが可能です。

Q2:2024年の税制改正で、雑損控除はどのように変わったのですか?

A2:2024年の税制改正により、雑損控除の対象となる「生活に通常必要な資産」の範囲が拡大されました。具体的には、これまで対象外とされていた特定の無体物(形のない資産)が新たに加わりました。

主な追加対象として、「暗号資産」及び「経済的な価値を有する無体物であることにつき証明がされているものとして政令で定めるもの」が含まれることになりました。これにより、これらの資産についても、災害や盗難、横領によって損害を受けた場合に、一定の要件のもとで雑損控除の対象となり得ることになります。

この改正は、多様化する個人の資産状況を踏まえ、雑損控除の適用範囲を実態に即したものに見直す趣旨で行われました。

Q3:追加された対象資産のうち、フリーランスに関係するものはありますか?

A3:今回の改正で追加された「暗号資産」は、フリーランスの方の中にも、生活用資産として保有している方がいらっしゃるかもしれません。もし、個人が生活用として保有する暗号資産が、災害や盗難等により損害を受けた場合、今回の改正により雑損控除の対象となり得ます。

ただし、重要な点として、雑損控除の対象はあくまで「生活に通常必要な資産」です。事業として暗号資産取引を行っている場合や、事業用の資産として保有している暗号資産が損害を受けた場合は、雑損控除の対象ではなく、事業所得等の計算上、必要経費として計上するなどの別の取り扱いとなります。雑損控除は、あくまで「生活用」の資産に対する損失をカバーする制度であることをご理解ください。

「経済的な価値を有する無体物で政令で定めるもの」については、今後の政令の内容を確認する必要がありますが、これも生活用資産としての損失が対象となる見込みです。

Q4:雑損控除を受けるための手続きや必要書類はありますか?

A4:雑損控除の適用を受けるためには、確定申告が必要です。確定申告書に必要事項を記載し、所轄の税務署に提出します。

申告の際には、損害を受けた資産の種類、被害の状況、損害額などを証明する書類の添付または提示が求められます。例えば、災害の場合は市区町村が発行する罹災証明書、盗難の場合は警察署への盗難届の受理証明書などが必要です。また、損害額を計算するための資料(購入時の情報、修繕費の見積書や領収書など)も準備する必要があります。

今回の改正で対象となった暗号資産の場合、その保有を証明する情報、損害発生時の状況(例:災害によるウォレット破損、盗難による流出など)、損害額(消失した数量、損害発生時の時価など)を示す書類やデータを準備する必要があると考えられます。

Q5:雑損控除の計算方法を教えてください。

A5:雑損控除の金額は、以下の二つのうち、いずれか多い方の金額となります。

  1. (差引損失額)-(総所得金額等の合計額)× 10%
  2. (差引損失額のうちの災害関連支出の金額)-5万円

「差引損失額」とは、損害金額と災害関連支出(災害によって受けた資産の損壊を回復するための支出など)の合計額から、保険金などによって補填された金額を差し引いたものです。

例えば、総所得金額等が500万円のフリーランスの方が、所有する生活用資産が災害により100万円の損害を受け、保険金などで補填されなかった場合、差引損失額は100万円です。 この場合の控除額は、 1. 100万円 - 500万円 × 10% = 100万円 - 50万円 = 50万円 2. (災害関連支出が0円の場合) 0円 - 5万円 = マイナス5万円(この場合は計算対象外) となり、①の50万円が雑損控除額となります。

もし、損害額100万円のほかに、災害関連支出(例:被害を受けた箇所の片付け費用など)が30万円かかり、保険金などがない場合、差引損失額は130万円です。 1. 130万円 - 500万円 × 10% = 130万円 - 50万円 = 80万円 2. 30万円 - 5万円 = 25万円 この場合は、①の80万円が雑損控除額となります。

Q6:フリーランスが雑損控除を申告する際の注意点はありますか?

A6:フリーランスの方が雑損控除を申告する際に特に注意すべき点は、事業用の資産と生活用の資産を明確に区別することです。事業用の資産に関する損失は、雑損控除ではなく、事業所得の計算において、例えば固定資産の除却損やたな卸資産の評価損などとして計上される場合があります。今回の改正で対象となった暗号資産なども、生活用として保有していたものか、事業用として保有していたものかで取り扱いが異なりますので、ご自身の保有状況を正確に把握しておくことが重要です。

また、災害関連支出として認められるのは、あくまで損壊した資産の原状回復や、被害の拡大を防ぐために直接かかった費用です。例えば、被災したことによって臨時にかかった生活費などは、原則として災害関連支出には含まれません。

保険金などによって補填された金額は、損失額から必ず差し引いて計算する必要があります。補填される保険金等が確定していない場合でも、見込み額を考慮して計算します。

結びに

2024年の税制改正により、雑損控除の対象となる資産に暗号資産などが追加されました。災害はいつ発生するか予測できませんが、万が一の際に、こうした税制上の支援措置があることを知っておくことは、経済的な負担を軽減する上で大変重要です。

特に、フリーランスとして事業を行いながら個人としても資産を保有している方は、事業用資産と生活用資産の区別を日頃から意識し、もしもの時に備えて、資産の状況や関連書類を整理しておくことをお勧めします。正確な申告のためには、税務署や税理士などの専門家にご相談することもご検討ください。