2024年所得税改正:財産債務調書・国外財産調書の提出義務変更Q&A(フリーランス向け)
2024年の所得税改正では、特定の所得控除や税額控除、各種手続きに関する変更点が見られますが、一定の所得や資産を有する方が提出を求められる「財産債務調書」および「国外財産調書」についても、提出義務の基準が見直されました。これらの調書は、確定申告を行う上で重要な情報を提供するものであり、対象となるフリーランスの方にとっては、改正内容を正確に理解しておくことが誤りのない申告につながります。
ここでは、2024年税制改正における財産債務調書・国外財産調書に関する主な変更点や、フリーランスの方が疑問に持ちやすい点について、Q&A形式で解説します。
Q1. 財産債務調書・国外財産調書とは何ですか?なぜフリーランスに関係があるのですか?
A1.
財産債務調書は、その年の12月31日時点において、一定以上の財産または債務を有する方が、それらの種類や価額、所在などを記載して税務署に提出する書類です。また、国外財産調書は、一定以上の国外財産を有する方が、同様にその内容を記載して提出する書類です。
これらの調書は、所得税の確定申告の内容が正しいかどうかを確認するためや、相続税・贈与税に関する資料として税務署が活用するものです。
フリーランスの方も、事業活動や個人として一定以上の所得や財産を有している場合、これらの調書の提出義務の対象となることがあります。所得税の確定申告とは別に提出が必要な手続きとなるため、ご自身が対象となるかどうかを確認しておくことが重要です。
Q2. 2024年の税制改正で、財産債務調書・国外財産調書の提出義務は具体的にどう変わったのですか?
A2.
2024年の税制改正により、財産債務調書および国外財産調書の提出義務の基準となる金額が変更されました。
- 財産債務調書: 従来は、その年の12月31日において総資産価額が3億円以上または合計所得金額が2,000万円以上の場合に提出義務がありましたが、改正により、合計所得金額が2,000万円以上である場合の総資産価額の基準が10億円未満に引き上げられました。つまり、合計所得金額が2,000万円以上であっても、総資産価額が10億円以上の場合は提出義務がなくなりました。(※合計所得金額が2,000万円未満で総資産価額が3億円以上の場合は引き続き提出義務があります。)
- 国外財産調書: 従来は、その年の12月31日において国外財産の価額の合計額が5,000万円超の場合に提出義務がありましたが、改正により、この基準に変更はありません。ただし、財産債務調書と同様に、合計所得金額が2,000万円以上である場合の国外財産価額の基準が10億円未満に引き上げられました。つまり、合計所得金額が2,000万円以上であっても、国外財産価額が10億円以上の場合は提出義務がなくなりました。(※合計所得金額が2,000万円未満で国外財産価額が5,000万円超の場合は引き続き提出義務があります。)
これらの改正は、主に所得が高く、かつ多額の資産を有する方のうち、特に資産規模が大きい層(10億円以上)について提出義務を見直すものといえます。多くのフリーランスの方に直接影響があるわけではありませんが、ご自身の所得や資産状況によっては対象となる可能性があるため、基準額を確認しておく必要があります。
Q3. 自分(フリーランス)が提出義務の対象となるか、どのように判断すればよいですか?
A3.
提出義務の対象となるかどうかは、その年の12月31日時点での「合計所得金額」と「総資産価額(または国外財産価額)」によって判断します。
- 合計所得金額: 事業所得や不動産所得、給与所得など、各種所得の合計額(損益通算後の金額)です。確定申告書を作成する際に計算される金額をご確認ください。
- 総資産価額: 日本国内および国外に有する全ての財産(土地、建物、現金、預貯金、有価証券、貴金属、書画骨董など)の価額の合計額です。事業用資産だけでなく、個人所有の資産も含まれます。
- 国外財産価額: 上記総資産価額のうち、日本国外に有する財産の価額の合計額です。
2024年分の所得について確定申告を行う場合、2024年12月31日時点の状況で以下のいずれかに該当するかを確認してください。
- 財産債務調書:
- 合計所得金額が2,000万円以上かつ総資産価額が3億円以上10億円未満である場合
- 合計所得金額が2,000万円未満かつ総資産価額が3億円以上である場合
- 国外財産調書:
- 合計所得金額が2,000万円以上かつ国外財産価額が5,000万円超10億円未満である場合
- 合計所得金額が2,000万円未満かつ国外財産価額が5,000万円超である場合
ご自身の収入や保有資産が上記の基準に近い場合は、正確な価額を計算して確認することが推奨されます。
Q4. 提出が必要な場合、いつまでに、どのような手続きで行うのですか?
A4.
財産債務調書および国外財産調書の提出期限は、その年の確定申告書の提出期限と同日です。2024年分の調書については、2025年3月15日が提出期限となります。(土日祝の場合は翌開庁日)
提出は、税務署に書面で提出する方法と、e-Taxを利用してオンラインで提出する方法があります。e-Taxでの提出が推奨されています。
調書には、財産や債務の種類ごとに、その数量、価額、所在などを記載します。財産の価額は、原則として提出日現在の時価または時価に準ずる価額により評価します。
Q5. 提出しなかった場合や、内容に誤りがあった場合、どのようなペナルティがありますか?
A5.
財産債務調書または国外財産調書の提出義務があるにもかかわらず、正当な理由なく提出期限までに提出しなかった場合や、記載すべき財産や債務を記載しなかった場合などには、ペナルティが課される可能性があります。
具体的には、提出義務がある調書に記載すべき財産または債務について、税務調査により申告漏れ等が指摘された場合、その申告漏れ等に係る所得税等に加算される過少申告加算税や無申告加算税が、通常の税率に5%加重されることがあります。
また、国外財産調書については、提出がなかった場合や虚偽の記載があった場合には、50万円以下の過料が課されることもあります。
これらのペナルティは、正確な税務申告を促進するためのものです。提出義務がある場合は、必ず期限内に正確な内容で提出することが重要です。
Q6. 財産や債務の評価方法や、自分が対象となるかの判断に迷う場合はどうすればよいですか?
A6.
財産の評価方法や、ご自身の所得・資産状況が提出義務の基準に該当するかどうかの判断は、専門的な知識が必要となる場合があります。特に、不動産や非上場株式など、時価の把握が難しい財産を多くお持ちの場合や、所得計算が複雑な場合は、判断に迷うことがあるかもしれません。
そのような場合は、税理士などの税務の専門家に相談することをお勧めします。専門家であれば、正確な情報を基に、提出義務の有無や適切な評価方法についてアドバイスを受けることができます。税務署の窓口や電話相談でも一般的な情報は得られますが、個別の複雑なケースについては専門家への相談がより確実です。
まとめ
2024年税制改正による財産債務調書・国外財産調書の提出義務基準の見直しは、主に資産規模が大きい層に影響するものです。しかし、フリーランスの方も、事業の拡大に伴い所得や資産が増加するにつれて、これらの調書の提出義務の対象となる可能性があります。
ご自身の2024年12月31日時点の所得と資産状況を確認し、提出義務がある場合は、確定申告と合わせて忘れずに、正確な内容で期限内に提出することが重要です。義務を怠るとペナルティが課される可能性もありますので、不明な点があれば早めに税務署や税理士に相談されることをお勧めします。正確な申告は、税務上のリスクを避け、安心して事業を行うための基本です。