【フリーランス向け】電子取引データ保存の実践Q&A〜2024年電子帳簿保存法対応
個人事業主やフリーランスの皆様にとって、毎年の確定申告は重要な手続きです。2024年の税制改正には、確定申告の基盤となる帳簿書類の保存に関する法律である電子帳簿保存法に関する重要な変更点が含まれています。特に「電子取引データ」の保存義務化は、多くのフリーランスに直接影響する内容です。
誤った対応は、税務調査時の指摘や青色申告承認の取り消しなど、将来的なリスクにつながる可能性もございます。この記事では、2024年の確定申告に向けてフリーランスの方が知っておくべき、電子取引データ保存に関する疑問点をQ&A形式で分かりやすく解説いたします。
Q1: 電子取引データとは具体的に何を指しますか?フリーランスに関係ありますか?
A1: 電子取引データとは、取引情報が電磁的方式(電子データ)によって授受される取引に関するデータ全般を指します。
具体的には、以下のようなものが電子取引データに該当します。
- メールに添付された請求書や領収書
- Webサイトからダウンロードした領収書データ(Amazonやクラウドソーシングサイトなど)
- クラウドサービス上で受領・発行した請求書や契約書
- キャッシュレス決済の利用明細(アプリやWebサイトで確認できるもの)
- インターネットバンキングの取引明細(Webサイトで確認できるもの)
これらの電子取引データは、事業に関係するものであれば、ほぼ全てのフリーランスの方に関係いたします。たとえ個人事業主としての売上が小さくても、インターネットを利用して仕入れや経費の支払いを行っている場合、電子取引データが発生している可能性が非常に高いです。
Q2: 2024年から義務化された「保存方法」の具体的なルールは何ですか?
A2: 電子帳簿保存法において、電子取引データは電子データのまま一定の要件に従って保存することが義務付けられています。以前は紙に出力して保存することも認められていましたが、この猶予措置は2023年12月末で終了し、2024年1月1日以降に行われた電子取引については、原則として電子保存が必要となりました。
保存にあたっては、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。
-
真実性の確保: データが改ざんされていないことを証明するための措置です。以下のいずれかの方法で対応します。
- タイムスタンプが付与された後、データの授受を行う
- データの授受後、速やかにタイムスタンプを付与し、かつデータの修正・削除を行った場合にその記録が残るシステムを利用、または修正・削除ができないようにする
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて、その規程に沿った運用を行う
-
可視性の確保: 必要な時にデータを確認できるようにするための措置です。以下の要件を満たす必要があります。
- 保存場所に、データの閲覧が可能なPC、プリンター、ディスプレイ等を備え付ける
- 保存データを検索できる機能(取引年月日、取引金額、取引先で検索できることなど)を確保する
フリーランスの場合、事務処理規程を定めて運用する方法や、検索機能を備えたクラウド会計ソフトや文書管理システムを利用する方法が現実的と考えられます。特に、基準期間(前々年)の売上が5,000万円以下の個人事業主は、検索機能の要件が一部緩和されます(税務職員によるダウンロードの求めに応じられるようにしている場合、範囲指定での検索や複数項目を組み合わせての検索機能は不要となります)。
Q3: 要件を満たす具体的な保存方法にはどのようなものがありますか?手軽な方法はありますか?
A3: 電子取引データの保存要件を満たすための方法はいくつかあります。
- クラウド会計ソフトや文書管理システムの活用: 電子取引データをアップロードするだけで、タイムスタンプ付与や検索機能といった要件を満たせるサービスが増えています。多くのフリーランスが利用しているクラウド会計ソフトにも、この機能が搭載されている場合があります。これが最も手軽で確実な方法の一つと言えます。
- 電子取引データ保存専用サービスの利用: 電子帳簿保存法に対応したデータ保存に特化したサービスを利用する方法です。
- 自社(個人)での管理 + 事務処理規程の整備: タイムスタンプが付与されていないデータ(メール添付の請求書など)を、ファイル名に規則(例:「YYYYMMDD_取引先名_金額」)を付けて保存し、かつ、データの訂正・削除防止に関する事務処理規程を作成し、それに従って運用することで真実性の確保要件を満たす方法です。この場合も、検索できるようにフォルダ分けやファイル名管理を工夫する必要があります。
- スマホで撮影した領収書の扱い: 紙で受け取った領収書をスマホで撮影してデータとして保存する場合、これは「スキャナ保存」の要件に従うことになります。電子取引データとは別のルールが適用されますが、電子帳簿保存法で認められている方法です。ただし、こちらもタイムスタンプや解像度、入力期間などの要件があります。
フリーランスの方にとっては、普段利用している会計ソフトの機能を確認するか、比較的安価で利用できるクラウドサービスを導入するのが、手間や確実性の面でおすすめです。
Q4: 保存要件を満たさないとどうなりますか?罰則はありますか?
A4: 電子取引データの保存要件を満たさなかった場合、直接的な罰則規定は設けられていませんが、税務調査時に問題となる可能性があります。
具体的には、以下のような影響が考えられます。
- 推計課税のリスク: 帳簿書類の保存が不十分であると判断された場合、税務署によって所得金額を推計されて課税される可能性があります。
- 青色申告承認の取り消し: 電子帳簿保存法の要件に従った保存が行われていない場合、税務署長が青色申告の承認を取り消すことができるとされています。青色申告特別控除(最大65万円または55万円)が受けられなくなるなど、税負担が増える可能性があります。
- 消費税に関する問題: インボイス制度導入により、適格請求書等の保存が重要になっています。これらを電子データで受け取った場合、電子帳簿保存法の要件に従って保存しないと、仕入税額控除が受けられなくなる可能性もあります(ただし、一定の経過措置や要件緩和があります)。
これらのリスクを避けるためにも、定められた要件に従って適切にデータを保存することが重要です。
Q5: 確定申告に向けて、今から何を準備すれば良いですか?
A5: 2024年分の確定申告(2025年初頭に提出)に向けて、今からでも以下の準備を進めることをお勧めします。
- 電子取引データの発生源を把握する: どのような取引で電子データ(メール添付の請求書、Webサイトからの領収書など)が発生しているかを洗い出します。
- 保存方法を決定する: クラウドサービスの導入、事務処理規程の整備など、ご自身の事業規模や取引量に合った保存方法を選択します。
- 過去分のデータの整理(任意ですが推奨): 猶予措置が終了したとはいえ、過去の取引データも適切に保存しておくことが望ましいです。
- 選んだ方法での運用を開始する: データの受け取りや発行のたびに、決めた方法で継続的に保存する習慣をつけます。
- 事務処理規程が必要な場合は作成する: 国税庁のウェブサイトなどにサンプルがありますので、参考に作成・整備します。
電子帳簿保存法への対応は、確定申告だけでなく日々の経理業務の効率化にもつながる可能性があります。早めに準備を進めることで、安心して確定申告に臨むことができるでしょう。
まとめ
2024年の税制改正に関連して、フリーランスにとって特に重要な変更点の一つが電子帳簿保存法における電子取引データの保存義務化です。この改正は、ほぼ全てのフリーランスに影響し、適切な対応が必要です。
この記事では、電子取引データの具体的な内容、保存要件、実践的な保存方法、そして対応しなかった場合のリスクについて解説いたしました。確定申告に向けて、ご自身の取引状況を確認し、ご紹介したQ&Aを参考に、適切なデータ保存の方法を検討・実施することをお勧めいたします。不明な点があれば、税理士や税務署に相談することもご検討ください。