Q&Aでわかる2024税制改正

2024年確定申告:簡易課税を選択したフリーランスのインボイス影響Q&A

Tags: 簡易課税, インボイス制度, フリーランス, 確定申告, 消費税

個人事業主やフリーランスの皆様にとって、確定申告は毎年避けて通れない手続きです。特に2024年の確定申告(2023年分の申告)は、2023年10月から始まったインボイス制度の影響を初めて受ける方が多くいらっしゃるかと思います。

インボイス制度への対応は複雑ですが、消費税の納税義務がある方で「簡易課税制度」を選択しているフリーランスの方も少なくありません。簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下である場合に選択できる制度であり、消費税の計算を簡便に行えるメリットがあります。しかし、インボイス制度の開始に伴い、簡易課税を選択している場合でも確認しておくべき点や注意点が存在します。

この記事では、簡易課税を選択しているフリーランスの方が、2024年の確定申告に向けて知っておくべきインボイス制度の影響について、Q&A形式で分かりやすく解説します。

Q1:簡易課税制度とはどのような制度ですか?フリーランスが選択するメリットは何ですか?

A1:

簡易課税制度は、消費税の納税額を計算する際に、実際に支払った消費税額(仕入税額控除額)を積み上げて計算する「本則課税」に対し、売上高にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けて計算する制度です。

具体的には、以下のように消費税の納税額を計算します。

この「みなし仕入率」は事業の種類によって異なり、例えばフリーランスの方に多いデザイン業やコンサルティング業などのサービス業(第五種事業)の場合は50%です。つまり、売上にかかる消費税額の50%を仕入税額控除として差し引けることになります。

簡易課税を選択する最大のメリットは、消費税の計算が非常にシンプルになる点です。本則課税のように、仕入や経費にかかった消費税額(つまりインボイスに記載された消費税額)を一つ一つ集計・管理する必要がありません。売上にかかる消費税額が分かれば、計算できます。

特に、仕入や経費に占める消費税額が、みなし仕入率で計算した額よりも少ない事業(つまり、ほとんど仕入がなく利益率が高い事業)を営むフリーランスにとっては、事務負担が軽減されるだけでなく、納税額が本則課税よりも少なくなるメリットもあります。

ただし、一度選択すると原則として2年間継続する必要がある点、設備投資などで多額の消費税を支払った場合でも、実際に支払った税額ではなくみなし仕入率で計算されるため不利になる可能性がある点には注意が必要です。

Q2:インボイス制度が始まって、簡易課税を選んでいる場合でも何か変わりますか?

A2:

インボイス制度が始まったこと自体によって、簡易課税制度による消費税の計算方法が変わるわけではありません。納税額の計算式(売上にかかる消費税額 × (1 - みなし仕入率))は引き続き適用されます。

しかし、インボイス制度は仕入税額控除の仕組みに関する制度であり、簡易課税を選択している納税者(簡易課税事業者)は、自らが仕入を行った際に、相手方から適格請求書(インボイス)を受け取っていなくても、仕入税額控除の計算に影響はありません。なぜなら、仕入税額控除額は個別の仕入にかかる消費税額ではなく、みなし仕入率で計算されるからです。

したがって、簡易課税事業者は、原則として仕入や経費に関するインボイスを収集・保存しておく必要はありませんし、そのインボイスに基づいて仕入税額控除を計算する必要もありません。

ただし、後述するように、簡易課税事業者であってもインボイス制度に対応する必要が生じるケースや、知っておくべき事項はあります。

Q3:簡易課税を選択していても、インボイスの記帳は必要ですか?

A3:

簡易課税制度を選択している場合、消費税の計算において、仕入や経費にかかった消費税額(インボイスに記載された税額)を集計する必要はありません。そのため、帳簿に仕入にかかる消費税額を区分して記帳する必要も、原則としてありません。

日々の記帳においては、インボイス制度開始前と同様に、例えば税込経理方式であれば、支払った金額を消費税込みで一つの科目で処理して差し支えありません。税抜経理方式を採用している場合でも、仕入や経費にかかる消費税額を仮払消費税等として区分する必要は、消費税の納税額計算上はありません(所得税の経費計算とは別の話です)。

ただし、これはあくまで消費税の納税額計算のための話です。所得税の確定申告において、経費の証拠書類として領収書や請求書(インボイスであるか否かに関わらず)を保存しておくことは引き続き必要です。

また、ご自身が適格請求書発行事業者として登録しており、お客様からインボイスの発行を求められる場合には、売上に関する適切な記帳(適用税率や消費税額の記載など)が必要となります。

Q4:簡易課税の場合でも、インボイスの保存は必要ですか?

A4:

先ほど述べたように、簡易課税事業者は仕入税額控除をみなし仕入率で計算するため、原則として仕入や経費に関するインボイスを保存しておく必要はありません。これは、インボイス制度が仕入税額控除の適用要件を定めるものであるのに対し、簡易課税ではその要件を問わないからです。

しかし、所得税の確定申告における経費の証拠書類としては、引き続き領収書や請求書(インボイスであるか否かを問いません)を保存する必要があります。また、ご自身が適格請求書発行事業者としてインボイスを発行した場合、その写しを保存しておく義務があります。この写しの保存は、インボイス制度における発行事業者の義務であり、簡易課税を選択しているかどうかにかかわらず必要です。

インボイスの写しの保存方法については、紙での保存はもちろん、電子データでの保存(電子帳簿保存法の要件に従う必要があります)も認められています。

Q5:簡易課税を選択しているフリーランスがインボイスを発行した場合、消費税の計算はどうなりますか?

A5:

簡易課税制度は、売上高にかかる消費税額をもとに納税額を計算する制度です。ご自身が適格請求書発行事業者として登録し、お客様にインボイスを発行した場合、そのインボイスに記載した消費税額がそのまま納税額になるわけではありません。

インボイスに記載する消費税額は、お客様が仕入税額控除を受けるために必要なものであり、あくまで売上にかかる消費税額を正確に伝えるためのものです。

ご自身の納税額は、以下の計算式で求められます。

例えば、サービス業(第五種事業:みなし仕入率50%)を営むフリーランスで、税抜10万円の売上(消費税10%で1万円)があったとします。この場合、お客様から受け取る金額は11万円となり、インボイスには消費税額1万円と記載します。

簡易課税での納税額は、売上にかかる消費税額1万円に対し、みなし仕入率50%を適用して計算します。 納税額 = 10,000円 - (10,000円 × 50%) = 10,000円 - 5,000円 = 5,000円 このケースでは、お客様から預かった消費税額は1万円ですが、納税額は5,000円となります。これが簡易課税のメリットであり、みなし仕入率が実際の経費にかかる消費税率よりも高い場合に生じます。

インボイスに記載した消費税額と、実際に簡易課税で計算した納税額が異なる場合がある点を理解しておくことが重要です。

Q6:簡易課税を選択しているフリーランスが、インボイス関連で特に注意すべき2024年の変更点はありますか?

A6:

2024年の確定申告(2023年分の申告)において、簡易課税を選択しているフリーランスがインボイス関連で直接的に大きな制度変更の影響を受ける点は限定的です。簡易課税制度そのものや、インボイス発行事業者の義務に関する大きな改正は、2024年確定申告の対象期間(2023年1月1日~12月31日)においては導入されていません。

ただし、インボイス制度が2023年10月1日から始まったことで、簡易課税を選択しているフリーランスの方も、ご自身の顧客が適格請求書発行事業者であるか、またその顧客がインボイスを必要としているか、といった取引状況の変化には引き続き注意が必要です。顧客からの求めに応じてインボイスを発行する場合、ご自身が適格請求書発行事業者として登録していることが前提となります。

また、2023年10月1日を含む課税期間から簡易課税の適用を受けるためには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。通常は適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに提出が必要ですが、インボイス発行事業者となる小規模事業者等に対しては、登録日から簡易課税の適用を受けようとする場合には、その登録日の属する課税期間中に提出すれば良いという特例措置があります(令和5年10月1日から令和8年9月30日までの属する課税期間中に登録を受ける場合)。2024年に登録を検討される方は、この特例の適用要件を確認しておくと良いでしょう。

税制改正は毎年行われますので、ご自身の事業形態や取引状況に合わせて、常に最新の税制情報を確認することが大切です。特に、将来的に簡易課税の選択をやめて本則課税に移行する場合などには、インボイスの保存などが重要になってきますので、今後の事業展開も考慮に入れて準備を進めることをお勧めします。

まとめ

簡易課税を選択しているフリーランスにとって、インボイス制度の開始は、消費税の計算方法自体に直接的な影響を与えるものではありません。しかし、ご自身が適格請求書発行事業者として登録し、インボイスを発行する場合には、その写しの保存義務が生じるなど、対応が必要となる事項があります。

簡易課税のメリットである事務負担の軽減を享受しつつ、取引先との関係やご自身の事業状況に合わせて、適切にインボイス制度への対応を進めることが、スムーズな確定申告につながります。ご自身の状況に不明な点がある場合は、税理士などの専門家や税務署に相談することをおすすめします。