2024年確定申告:家内労働者等の必要経費の特例Q&A(フリーランス向け)
2024年の所得税確定申告に向けて、税制改正に関する様々な疑問をお持ちのことと思います。特に個人事業主やフリーランスの方々は、ご自身の所得や税額に直接影響するため、正確な情報を得ることに高い関心をお持ちかと存じます。
このたびの税制改正に加え、既存の税制度の中にも、フリーランスの方が活用できる特例がいくつか存在します。「家内労働者等の必要経費の特例」もその一つです。この特例は、特定の働き方をする方々の必要経費に関するものです。ご自身の働き方が該当するかどうか、適用を受けることでどのような影響があるのか、疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、「家内労働者等の必要経費の特例」に焦点を当て、よくある疑問をQ&A形式で解説いたします。確定申告のご準備に際し、ご参考になれば幸いです。
Q1:家内労働者等の必要経費の特例とはどのような制度ですか?
A1: この特例は、所得税法上の「家内労働者等」に該当する方が、事業所得または雑所得を計算する際に適用できるものです。簡単に申し上げますと、実際の必要経費の額にかかわらず、最低限一定額(原則として65万円)を必要経費として計上できるという制度です。
例えば、事業収入から実際の経費を差し引いた金額が所得となりますが、この特例を適用すると、実際の経費が65万円に満たない場合でも、必要経費として65万円を差し引いて所得を計算できます。これにより、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。
Q2:どのようなフリーランスがこの特例の対象になりますか?Webデザイナーなども対象でしょうか?
A2: この特例の対象となる「家内労働者等」とは、主に以下のような方を指します。
- 家内労働法に規定する家内労働者
- 外交員、集金人、電力量計の検針人
- 特定の事業(事業所得を生ずべき特定の事業)を行う方で、これらの者に類する者として政令で定める方
ここでいう「これらの者に類する者」には、請負契約に基づいて、主として自宅などで一人または家族とともに、依頼された仕事を行う方が含まれるとされています。
Webデザイナーの方で、クライアントと請負契約を結び、主に自宅で作業を行っている場合は、この「特定の事業を行う方に類する者」に該当し、この特例の対象となり得ます。ただし、雇用契約に基づく給与所得がある場合は、後述の計算上の注意点があります。ご自身の契約形態や働き方が請負契約によるものであれば、対象となる可能性が高いと考えられます。
Q3:特例を使うと、私の所得や税金は具体的にどうなりますか?
A3: この特例を適用すると、事業所得または雑所得の金額を計算する際に、収入金額から差し引く必要経費の額を、以下のいずれか多い方の金額とすることができます。
- 実際に支出した必要経費の額
- この特例で認められる必要経費の額(原則として65万円)
例えば、請負による収入が100万円あり、実際に支出した経費が30万円だったとします。
- 特例を適用しない場合:所得金額 = 収入100万円 - 実際経費30万円 = 70万円
- 特例を適用する場合:所得金額 = 収入100万円 - 特例による必要経費65万円 = 35万円
このように、所得金額が少なく計算されるため、その分、所得税や住民税の負担が軽減されます。
ただし、その年中に給与所得がある場合は、この特例で認められる必要経費の額は、「65万円」から「給与所得控除額」を差し引いた金額が上限となります。例えば、給与所得控除額が40万円であれば、特例で認められる必要経費の上限額は25万円(65万円 - 40万円)となります。この場合、実際の必要経費と25万円(または他の所得がある場合の調整後の金額)を比較して多い方を必要経費とすることになります。
Q4:特例を使うための条件や手続きはありますか?確定申告書への記載などが必要でしょうか?
A4: この特例の適用を受けるために、事前の申請などは特に必要ありません。確定申告を行う際に、この特例を適用して所得を計算し、申告書にその旨を記載することで適用が受けられます。
具体的には、確定申告書の「事業所得」または「雑所得」の計算において、この特例を適用した後の必要経費の金額を記載します。また、事業所得の場合は「青色申告決算書」または「収支内訳書」を、雑所得の場合は「収支内訳書」を作成し添付しますが、これらの書類の必要経費の計算欄で特例を適用した旨を記載するなど、所定の方法で計算結果を記載します。
ご自身のケースでどのように申告書に記載すればよいか不明な場合は、国税庁の確定申告書作成コーナーを利用したり、税務署や税理士に相談したりすることをお勧めいたします。
Q5:この特例を使う場合でも、経費の領収書などは保存しておく必要がありますか?
A5: はい、この特例を適用する場合でも、実際に支出した経費に関する領収書や請求書などの証拠書類は保存しておく必要があります。
この特例は、あくまで所得計算上の「必要経費の最低保証額」のようなものです。税務調査などがあった際には、実際の収入金額や、特例の適用対象となる働き方であること、そして実際に支出した経費の金額について確認される可能性があります。
白色申告、青色申告いずれの場合も、法律により帳簿書類の保存義務が定められています。この特例を適用するからといって、その義務が免除されるわけではありませんので、日々の記帳や証拠書類の保存は引き続き適切に行っていただくことが重要です。
Q6:青色申告をしている場合でも、この特例は使えますか?青色申告特別控除との関係はどうなりますか?
A6: はい、青色申告をしている方でも、この特例を適用することができます。白色申告の方、青色申告の方のいずれも対象となり得ます。
「家内労働者等の必要経費の特例」による必要経費の計算と、「青色申告特別控除」は、所得税の計算における異なる段階で適用されるものです。
- まず、収入金額から「家内労働者等の必要経費の特例」を適用して計算した必要経費を差し引き、事業所得(または雑所得)の金額を算出します。
- 次に、この事業所得金額から、青色申告者が一定の要件を満たした場合に受けられる青色申告特別控除(10万円、55万円、65万円など)を差し引いて、最終的な所得金額が確定します。
したがって、この特例による65万円(または給与所得がある場合の調整額)の必要経費の算入と、青色申告特別控除は両方適用することが可能です。実際の経費が少なく、この特例で必要経費が65万円とみなされる場合でも、さらに青色申告特別控除(例えば65万円)を差し引くことができるため、大幅に所得金額を圧縮できる可能性があります。
Q7:この特例を利用する上で、何か注意点はありますか?
A7: いくつかの注意点があります。
まず、対象となる所得が請負契約などによる事業所得または雑所得であることです。雇用契約に基づく給与所得は、この特例の対象となる「家内労働者等」の所得には含まれません。
次に、前述の通り、給与所得がある場合は特例で認められる必要経費の上限額が変わる点です。原則65万円ではなく、65万円から給与所得控除額を差し引いた金額が上限となりますので、ご自身の給与所得控除額を確認し、正しく計算する必要があります。
また、この特例は「必要経費が最低65万円とみなされる」というものであり、実際の経費が65万円を超える場合は、実際の経費を計上した方が有利です。ご自身の実際の経費がいくらなのかを正確に把握し、特例を適用した場合としない場合(実際の経費を計上した場合)のどちらが所得金額を少なくできるかを比較検討することが重要です。
そして、繰り返しになりますが、この特例を適用しても帳簿書類の作成・保存義務が免除されるわけではありません。白色申告、青色申告いずれの場合も、日々の取引を記帳し、領収書などの証拠書類を適切に保存しておく必要があります。
「家内労働者等の必要経費の特例」は、特定の働き方のフリーランスにとって、所得税等の負担を軽減できる可能性がある重要な制度です。ご自身の働き方がこの特例の対象となりそうか、また適用した場合のメリットや注意点をご理解いただき、2024年の確定申告にお役立ていただければ幸いです。
制度の詳細やご自身の状況に合わせた正確な計算については、税務署の窓口や税理士にご確認ください。